更新日:2025年8月18日
この地を見守る一本の桜 千年の物語を秘めて・・・
壱. 勝敗は決したのに、なぜ、追われ続けた?
1185年、壇ノ浦の戦いで源氏に敗れ、平家は滅亡。と、教科書では習いました。
しかし、源氏は勝敗が決した後も、平家の残党を執拗に追い続けました。
その理由は、遡ること26年前、源氏の棟梁であった源義朝(みなもとのよしとも)は、平治の乱で平清盛(たいらのきよもり)との権力争いに敗北したことに起因します。
本来なら、父と共に処刑されるはずだった息子の頼朝(よりとも)ですが、当時まだ幼かったこともあり、情けをかけられ島流しという形で命拾いをします。
皮肉にもそれが仇となり、やがて平家は滅亡することに・・・。
そのような自身の経験から頼朝は、平家の一族郎党子孫に至るまで探し出し、殺すよう指示を出したのです。
弐. 逃げては戦い、逃げては戦い・・・
壇ノ浦の戦いで生き残った平家残党は、源氏の追手から逃れるため、南へ南へと急ぎます。
ただ、女人を伴う行軍で思うように進めなかったと想像され、追いつかれる度に戦いが起こり、そこで多くの平家武者が討ち取られました。
筑後市二本松の戦地跡は、戦いにより流れ出た血で川が赤く染まったと云われ、別称「赤井手」または「血井手」と呼ばれました。
同じく筑後市尾島では、戦い後の遺骸を葬ったといわれる地に「一之塚源平古戦場跡」の塚と碑が建てられています。
參. 最後の戦いは、みやまの「要(かなめ)川」
平家の落人たちは、さらに九州奥地へと逃走しますが、みやま市山川町で再び追手に追いつかれます。
残ったわずかな将兵は、女人達を先に逃がし、源兵を迎え討とうと行く手を阻みましたが、激戦の末、あえなく討ち取られてしまいました。
付近には、追手の源氏を見張ったと云われる物見塚が地名といっしょに残っています。
この地は、現在整備され「要川公園」となり、そこには「平家最後の合戦の地」の碑が置かれています。
肆. 逃げるのをあきらめ、死を選ぶ者
要川で壊滅的敗北を余儀なくされると、その後は霧散状態に・・・。
先に逃れた7人の女人達も、山に分け入りましたが、行く手は渓流の水と岩山の壁‼。もはやこれまでと、たどり着いた滝で自ら命を絶ちました。
この悲しい物語の場所は「七霊(しちろう)の滝」と呼ばれ、現在では社が建てられ、今もそこに滝の音が響いています。
伍. さらに逃げて、生き延びる者
また、要川の戦いでかろうじて生き延びた6人の落ち武者(騎士)は、柳川の沖ノ端へ移り住み、村を支えながら沖ノ端漁業の基礎を築き、子孫も繁栄した話が伝えられています。
村人達が、漁師となった6人の武将のことを「六騎(ろっき)殿」と称していたことから、のちに漁業者のことを「六騎」と呼ぶようになりました。
現在も矢留(やどみ)小学校の裏手には「六騎大神宮」が残り、地元では今でも漁師さんのことを「ろっきゅうさん」と呼び、これは親しみや尊敬の念を込めて「六騎殿」が訛(なま)ったと考えられます。
陸. 遠く都を離れ、世を忍び暮らした「平家落人伝説」
平家の落ち武者と呼ぶ場合もありますが、落ち延びたのは武士だけではなかったため、平家の落人(おちゅうど、おちうど)とも言われます。
平家の落人は、素性を隠し潜伏しますが、褒章目当てに密告される恐れもあり「平(たいら)」の姓を捨てて、更に人里離れた奥地へと移動しました。
熊本県八代市の五家荘(ごかのしょう)や、宮崎県椎葉村(しいばそん)などが、よく知られていますが、平家の落人が潜んだ地は、平家谷、平家塚、平家の隠れ里、平家落人の里などと呼ばれ、みやま市にも多く落人伝説が残っています。
漆. 平家と関係の深い地名が多い「みやま市」
最後の合戦があった要川公園付近には、平家とゆかりが深い地名が残っており、山川町の伍位軒(ごいのき)集落、谷軒(たにのき)集落、高田町の平(たいら、でぇら)集落などは、平家落人伝説の里といわれています。
伍位軒とは珍しい地名ですが、位の高い(正五位(しょうごい)や従五位(じゅごい)の位階等級)平家の落人が関係していたのかもしれません。
人里離れた集落ですが、長年の努力が実り、今ではブランドみかんの名産地となりました。
亀谷地区の平集落では、そこに住む方の大半が坂梨(さかなし)さんです。
平家の落人が「平=坂が無い」と表現した「坂無」に当て字したと伝えられています。
捌. 平家一門のご神木「平家一本桜」
平家の残党が隠れ住んだと伝えられる「平家谷」が存在する、みやま市山川町。
その平家谷にある小高い「天保古(てんぽこ)山」の山頂に悠然と立つ「平家一本桜」は、毎年、春になると最後の戦場となった要川を眼下に美しい花を咲かせ、平家ゆかりの地を見守る姿から、平家一門のご神木として親しまれています。
昨今、人々の住まう麓(ふもと(平地))からも仰ぎ見ることができる大変珍しい一本桜と、みやま市を舞台にした映画のロケ地になるなど、注目を浴びるようになりました。
しかし、遥かな時代より、この地を象徴するみやまのシンボルなのです。
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